DSTプロジェクト

ナラティヴとは

「ナラティヴ」は語り手自身が紡いでいく自分の物語です。 口述によっておこなう、 時の流れと事柄の説明を含んだ生活・人生・生き方の物語であり、 自己の世界観を読み解くための物語です。

自己の物語を他者に語ることには大きな意味があります。
自分の心の動きを把握し内省しつつ、 対話によって他者に自分の心の内を表現する。 この一連の動きが正のスパイラルを生み、 自己の物語として思考が整理されます。
この思考の整理が、 抱えている問題を別の解釈に置き換え対処が可能になったり、 思考のイノベー ションが生まれたりするなど、さまざまな効果を生むのです。

このナラテイヴのプロセスを、対話を重視した探究型学習と マルチメディアを活用したDST(デジタルストリーテリング)によって行うのがわたしたちナラティヴ・ ラボの特徴です。

DSTとは

DSTとはデジタル・ストーリー・テリング(Digital Story Telling)の略です。いま世界中で注目されている人材育成プログラムです。 社会人教育(ビジネスマン ・ 地域住民 ・ 外国人や女性など)や学校教育の現場で成果を上げるなど、 老若男女様々な立場の人に有効なマルチメディアを使ったナラテイヴ作成メソッドです。

   ①プロジェクト参加を通して自分の心の動きを記録する。

   ②その記録を文章にまとめる。

   ③完成した文章を自分の声でナレーション録音する。

   ④音声に写真やイラストなどの静止画を付けて動画に仕上げる。

   ⑤動画を上映会でシェアする。

以上の5段階で構成され、グループでの対話、ファシリテーターとの個別の対話、そして自己との対話が組み合わされています。

他者との関わりの中で自己の物語を構築していくことが重要で、動画制作のプロセスで自分の制作物を客観視し、対話によって「課題の外在化」「反省的な質問を通して例外的要素に気付く」ことがなされ、【自分の心の内を表現→内省】という行為が繰り返されます。

これら一連の行為により自己の世界観が構築され、思考が整理されます。動画完成後の上映会は共感と相互承認の場となり、よりよく生きる上で欠かせない自尊感情が高まる効果が見込まれます。

 DSTは参加者の潜在的な創造性を刺激し、ナラティヴにより自己探究自己理解自己表現を重ね他者と共創する心を生み出します。
ナラティヴ・ラボは共創のマインドで社会の中で居場所・役割・他者との繋がりを自覚しながら活躍できる若者を育成します。

老若男女どなたにも新しい気付きや創造的思考をもたらすマルチメディアを活用した「コミュニケーション」「創作」「表現」のアクティブラーニングがDSTプロジェクトです。

学校・クラス・職場・勉強会など様々な場所での人材育成やユニークな表現活動・創作活動として実施場所に合わせて効果的に実行できるワークショップをご用意しています。
個人・団体ともにお問い合わせをお待ちしております。あなたもDSTを体験してみませんか。

2023探究プロジェクト概要

「他者理解と多様性」をテーマに、ドキュメンタリー映画を鑑賞し意見を交換したり、コミュニケーションと他者理解・自己理解のためのペアワークやグループワークなどに参加しながら毎回自己の心の動きを記録し、ふりかえりの会でメンバーとシェアします。そしてここまでに心に浮かんだ気づきや想いをまとめた文章を作成します。その文章を自らの朗読音声と写真やイラストを組み合わせ、自分だけの「ココロの動画」に仕上げます(DST動画制作)。 

普段の学校や友人関係とは違い、所属や経歴・国籍などさまざまなバックグラウンドを持った参加者が出会う新しい交流の場です。新鮮な人間関係の中多様で新鮮な価値観に触れながら、今後の社会や人生において大切なテーマについてじっくり考える「ユニークな課外活動」です。

安全な仲間づくりの場で様々な方法で対話を重ねながら創造性を刺激し、自己探究・自己理解・自己表現を重ねて他者と共創する心を育てます。動画制作の過程で簡単なオリジナル画像や動画制作のスキルも学べます。

公認心理師やキャリアカウンセラーなど多彩な経歴の大人がサポートするので安心してプログラムに参加できます。 

日程など詳細

スケジュール:
各回2時間/全10回
参加:16歳から33歳までの男女6名

1月20日 18:00 自己紹介とペアのワーク
1月27日 18:00 映画「バベルの学校」鑑賞&感想シェア
2月3日   18:00 バベル感想から&テーマトーク(私がストレスに感じること)
2月17日 18:00 アートワーク(「自分」を作る)
2月24日 18:00 アートワーク感想シェア&全体ふりかえり・印象シェア
3月3日  18:00 DST制作
3月17日 18:00 DST制作
3月24日 17:00 DST内部上映会
3月25日 18:00 DST公開上映会@メディアコスモス
     内容:参加者制作の「ココロの動画」上映・参加者との質疑応答・交流会
4月9日  14:00 最終ふり返り会

場所: 岐阜開成学院(岐阜県岐阜市金宝町2-5-1)/ ぎふメディアコスモス 考えるスタジオ

DST無料公開上映会について

公開上映会プレスリリース(PDF)
ナラティヴ・ラボ(代表:山本卓司・岐阜市)は、1月から毎週開催しているワークショップ「DSTプロジェクト」で参加の若者が制作した動画の上映会を3月25日(土)にみんなの森ぎふメディアコスモス(岐阜市)にて開催する。毎回行われる自己紹介やドキュメンタリー映画鑑賞をきっかけとした意見交換・コミュニケーションのワークや「自分」をテーマにしたアートワークと意見シェアのワークを行い、都度心の中に生まれた気づきや思いをまとめ自分を表現する「デジタルストーリーテリング」(ココロの動画)を制作し、上映会で意見をシェアする。この事業は「岐阜県孤独・孤立対策官民連携事業」の助成を受けている。

プロジェクトの主旨
今、若者の「生きる力」を育む教育が求められています。自己肯定感が低く、安心・安全な居場所が無いために孤立感を抱く若者が多く見られます。SNSでのコミュニケーションが進む中で、自己表現や他者理解、信頼関係を作ることが苦手です。一方で教育現場では、アクティブラーニングの導入が進み、主体的な学びの方法論が模索されています。この「DSTプロジェクト」は共感と相互理解の場で自分の経験(=ナラティヴ)をテーマにマルチメディアを活用した「コミュニケーション」「創作」「表現」のアクティブラーニングです。教員・公認心理師・キャリアカウンセラー・人材教育の専門家などが集まり参加者を支援します。

■見所
16歳~30歳の若者6名が、連続6回のワークショップに参加し、その内容をもとに「デジタルストーリーテリング」(ココロの動画)を作成。ひきこもりや不登校などそれぞれ孤独・孤立の状態に直面しながら現代を生きる若者たちが、心の中を以下のプロセスで表現しました。
①ワークショップ参加を通して自分の心の動きを記録する。
②その記録を文章にまとめる。
③完成した文章を自分の声でナレーション録音する。
④音声に写真やイラストなどの静止画を付けて動画に仕上げる。
⑤動画を上映会でシェアする。
動画制作過程で表現を繰り返すことにより内面のアウトプットと自己客観視が進み、また参加者同士やスタッフとの対話も影響を受けていきます。「自分が見える・お互いが見える」DSTのワークを通して変化していく姿も上映会で明らかになります。

記録

DST(ココロの動画)作品一覧(公開上映会の上映順)

参加者の声(4/9ふり返り会)

アートワーク

◎全員楽しめた。「箱をデコレーションして自分を表現する」という考えない直観的作業で評価されない安心感があった。自己表現できたという感触や達成感も得られた。

DST制作

◎初めての経験で台本作成に苦しむが画像編集は楽しかった。

・自分を書く台本は、学校の作文とは全く違った。誰にも語らなかったことをどこまで書くのか考えた。自分にとって重い決断だった。結果、書いてよかったと思った。一歩踏み出せた。

・台本では、どこまで自分を出すか迷った。自分と向き合う時間だった。画像編集はあまり深く考えなかったし、面白かった。(内面を表現する)画像を選ぶのは楽しい。

・初めての動画編集だが以前からやってみたかった。台本は言いたいことの文章化が難しく、書きながら悩んだ。箱作りの時に自分の人生(物語)を考えていた。箱ワークには物語性があったので、書くことに進みやすいと思った。

・原稿の内容は頭にあるのだが文章にできず、ファシリテーターと対話しながら何とか完成することができた。タイトルは自分の言葉から印象的な言葉を見つけた。動画編集も手伝ってもらったので次は自分で全て作りたい。

公開上映会

◎人前に出ることに慣れておらず、冷静に自分の作品を見ることができなかった。

・親にも言っていないことも表現した。自分(内面世界)を人に見せるのは初めて。動画は参加メンバーに見てもらうつもりで作った。観客の感想が嬉しかった。観客の人にも伝わったのかもと思った。

・親兄弟や親戚が喜んでくれた。

・私の作品の上映中、妹がめちゃくちゃ泣いていたので気になって、冷静に作品を見れなかった。

・家族も見に来てくれてとても楽しかった。動画は自分を知らない全ての人に向けて作った。思いのほか観客の方から感想があってびっくりした。ちゃんと見てくれたのだと思った。自分を表現した作品に価値などあるとは正直思っていなかった。少し自信が生まれたかもしれない。

プロジェクト全体を振り返って(ビフォーアフター)

・家族以外の人と話したり笑ったりできるとてもよい機会になった。嬉しい。自分でも他人と話せるのだと思った。昔は家族や近所の人に「隠せ、話すな」と言われたことも公開することができた。DSTのナレーションはできないと思ったが、最後までやり通せたのは大きな自信になった。

・自分が何者なのかを考えた。自分と向き合う時間だった。そして自分について新たに分かったことがある。過去を思い出すことは苦手なので避けてきた。今回このプロジェクトに参加して自分と向き合い「自分の心に寄り添う」ようになった。今後の展望ができた。もっと人と関わり、話したい。

・以前は自分のことを話すことも、書くことも人前に出ることもできなかった。最近はできることが増え調子がよくなっていた。そんなタイミングでこのプロジェクトに参加した。いろんなワークで、「できている自分」を確認できた。他の参加者の話に「分かる」「自分もそう思う」と共感できた。「自分だけではない」と思った。DSTで他の参加者の物語は面白かった。お互いが分かり合える。

・人としゃべることは楽しいとあらためて思った。内向きの心が外に向かうような気がする。今回の経験で「できちゃった」を経験したので、これからは逃げずに何でもやってみようと思った。

質問:あなたにとってナラティヴ・ラボは「居場所」になりましたか?

・最初は自分から話しかけてよいかのか戸惑った。初対面の人と話せて自分でも驚いた。話しかけてくれるので話しやすく、フォローもしてくれた。話していると楽しい。(参加者から「雑談が得意だよね」と言われ、笑顔)またよかったら集まりに入れてほしい。

・家庭以外の居場所になった。だんだんとみんなと話せるようになった。安心して通える場だなと感じた。いつもは人見知りの自分だけど、実は人と話したい話しかけられることが嬉しかった。雑談は大切だなと思った。みんなと話していると、ここは居場所だと感じる。

・たしかに居場所だった。家にいると家族以外と関わらないまま考え込んでしまう。やはり自分は人と話すのが好きなのだと思う。くだらない話はとても楽しい

・普段の生活では深い話をしない。浅い話しかしない。ここではいろんな人と話せた。みんなと「同じ気持ちなんだ」と共感できた。「私もそう。一人ではない」と思えた。相手のことを知ることは自分にも良い影響があるのだとあらためて思った。そういう話をする場が他にはない

プロジェクトを終えて…その後

今回の参加者全員が「自分はコミュニケーションが苦手だ」「自分に自信がない」と思っている若者たちでした。期間の違いこそあれ、みな不登校・引きこもりを経験、あるいは今も継続しており孤独孤立の重苦しさをまとって生きたことのある、生きている若者たちでもあります。

そんな若者たちが初対面から多様なワークを経て自身の心の動きをスタッフとの対話を通して物語にまとめました。これがナラティヴです。出来上がったDSTを御覧頂いた通り、内容も興味深く、実に見事に各参加者の個性が浮き彫りになっています。

参加者の心を刺激するキーとなったのはアートワークでした。肯定的で心理的安全を感じる場所で、答えも評価もない創作活動で自分を表現しようとする。そのうち心がほぐれ目を背けていた自分の内面に視線が向かうようになる。そしてDST制作を通してスタッフとじっくり対話することによって自己客観視が進み、自尊感情・自己理解・自己肯定・自信の4J(笑)が生まれる。それが心の変化となって実感できるという正のスパイラルが生まれる。加えて参加者同士の自己開示も進み相互理解や共感が相乗効果で心をポジティブな方向に向かわせます。これこそがDSTプロジェクトの効果なのです。

しかし、クライマックスはその後です。ただ文章を作る、動画を作るだけなら自己完結してしまい効果は限定的です。まずは参加者とスタッフだけの上映会、続いて外部での公開上映会を経験することに意味があります。最初は恥ずかしがっていますが、肯定の場に触れることで心に大きな変化が見られます。まずは制作に苦労した点など自分の感想を話し、そして他者から自分の動画に対する印象を聞く。特に公開上映では自分の動画に見ず知らずの人が感動したり涙を流す姿などを見て、より一層自尊心を高め自己受容を進め、「本当は話すのが好き」「人と関わりたい」というような「自分への誤解を解く」ことや「しまい込んでいた自分を表に出す」ことが実現するのです。

プロジェクト終了後も参加者は変化を続けています。引きこもりだったひとは一歩として長期間足を運ぶことがなかった病院に定期的行くようになり医師のアドバイスを受けています。不登校だったひとは「とにかくやってみよう」と前向きに課題に取り組み登校回数も増えました。自分から話すのが苦手だったひとは勇気を出して他の生徒に声をかけるようになりました。それぞれの変化はまだ始まったばかりです。

中高生に限らず日本人全体の課題と言えるものに「自己肯定感・自己評価の低さ」が挙げられます。内閣府の若者を対象とした意識調査でも諸外国に比べ「自分自身に満足している」の項目が極端に低くなっています。それに比して「つまらない・やる気が出ない」「悲しい・憂鬱だ」の項目が高くなっています。これはどういう理由が考えられるでしょうか。

他者評価の蓄積は自己評価に如実に反映されます。対話なき「指導者」が減点法で評価を行う。子供時代からその繰り返しに心を痛め、諦め、自分の可能性や創造性に蓋をしてきた結果が気力がなく憂鬱な気分の若者を増やしている理由ではないかと思います。そして集団の中にあっても孤独を感じたり、孤立を深めているのです。

それぞれの得意不得意は合理的配慮で補い、答えのない問いを考えたり、創造的な活動を行う。また人間関係においてはそれぞれがみな違いのある個人であるという前提のもと、心理的安全性を確保した場所でコミュニケーションしながら相互理解や共感を進める。今回ナラティヴ・ラボのワークショップでは、スタッフそれぞれの専門分野の知識と経験を使いながら参加者の特性を考慮し、柔軟な対応でプログラムを組み立てました。

集団のパーツとしての個人ではなく、それぞれ考えと違いを持った個人の集まりとしての集団であるという考えがベースにあります。その基本設計は、まだまだ日本の社会が不得手としているところです。一斉集団が基本の日本の一般の学校ではシステムとして物理的に不可能でもあります。

拡大・拡張、効率重視で大量生産大量消費を実現するための人事育成はもはや時代に適合しなくなりました。個の創造性を磨き質を高める。その個がそれぞれの得意を活かし共創し、さらに質の高いものを生み出す。これからの日本が必要としているのはそのための人材育成ではないでしょうか。

どの大学も目的として判で押したように「大学の学びを活かし、社会に還元・寄与する人材を育成する」ことを掲げています。ならば最新の社会に必要である人材にならんとする若者たちに「やる気がない」「憂鬱だ」などと言わせてはならないと強く思います。これは若者のせいじゃない。社会の評価システムに原因があるのです。自己肯定感において他者から褒められることは副次的なものです。自己を受容し、自分の生を肯定することこそが自己肯定感なのです。

今回の参加者、長い人では10年以上その苦しみに寄り添ってきました。ある参加者の公開上映会での言葉が忘れられません。

「今まで生きてて、今が一番幸せです。」

初めて会ったあの日の姿からは想像もつかない晴れやかな笑顔と明瞭な口調。こんな日が来るなんて込み上げてくるものを抑えられませんでした。公開上映会の会場の雰囲気も忘れられません。参加者と初対面の観客の方が、参加者たちを自分の身内かのように慈愛に満ちた目で見てくださったり、涙ながらに「君はひとりじゃない」「私も家族に会いたくなった」などあたたかい言葉をかけてくださったのが印象的でした。DSTは共感と理解を呼ぶ”究極の自己紹介”だなと実感しました。

このプロジェクトに大きな意義と強い効果を感じています。ひとりでも多く、粘り強く心に寄り添いながら。これからもDSTプロジェクトを継続し、地域の若者たちの孤独と孤立をできる限り防いでいきたいと思っています。

ナラティヴ・ラボ代表 山本卓司

中日新聞に取材いただきました

中日新聞2023年4月11日岐阜版
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ナラティヴ・ラボ

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